ゲーム業界の転職理由、なぜクリエイターは職場を変えるのか?

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ゲーム業界の転職理由、なぜクリエイターは職場を変えるのか?

ゲーム業界の転職理由、なぜクリエイターは職場を変えるのか?

プロスポーツ選手が所属チームを「移籍」するような感覚で職場を変える人も少なくないのがゲーム業界。ゲームクリエイターならではの転職観ってありそうだなぁと思いまして、今回は「なぜゲームクリエイターは職場を変えるのか?」を掘り下げてみたいと思います。

目次

会社都合より、「より良い条件の仕事を探す」転職理由が伸長

手始めにゲーム業界に限らず、あらゆる業種を対象にした転職者の「前職の離職理由」を見てみましょう。

総務省が示す「前職の離職理由別 転職者数」によれば、ダントツ首位で右肩上がりなのは「より良い条件の仕事を探すため」(赤い線)という転職理由。逆に「会社都合」(青い線)は右肩下がりで、勤め先の倒産や事業所閉鎖、人員整理などを理由に離職する人は減っているのが分かります。

CEDEC 2019「ゲーム開発者の就業とキャリア形成2019」内の「図 2-10-1 ゲーム産業での転職回数」をもとに筆者作成
総務省:統計トピックスNo.123「増加傾向が続く転職者の状況 ~ 2019 年の転職者数は過去最多 ~」
図2 前職の離職理由別 転職者数(2020年2月21日)
https://www.stat.go.jp/data/roudou/topics/topi1230.html

このグラフはコロナ前までの大きな潮流を示すものですが、「勤め先の都合でやむを得ず」ではなく、「本人の意向で」より希望に合った仕事内容やポジション、より良い待遇・条件の職場環境を求めて転職する人が増えている様子がうかがえます。

「組織寿命」より「個人の労働寿命」のほうが長く、自律的なキャリアマネジメントが必要とされる昨今、自ら転機を作り出してキャリアデザインしていく気運の高まりも感じます。

ゲーム産業での転職は、ごく一般的なキャリア選択

ゲーム業界はとりわけ人材流動性が高く、ゲーム会社の中途採用も活発に行われています。CESA(*1)が2019年にゲーム開発者に行った調査でも「転職経験あり」と回答した人は4割以上(43.4%)。皆さんの職場でも「中途入社のメンバーがいるのは当たり前」という会社が多いのではないでしょうか。

総務省:統計トピックスNo.123「増加傾向が続く転職者の状況 ~ 2019 年の転職者数は過去最多 ~」
CEDEC 2019「ゲーム開発者の就業とキャリア形成2019」内の「図 2-10-1 ゲーム産業での転職回数」をもとに筆者作成
https://cedec.cesa.or.jp/2019/docs/enquete_2019_final.pdf#page=13

*1 CESA:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会。国内最大のゲーム開発者向け技術交流会 CEDEC(Computer Entertainment Developers Conference)を毎年開催。

ゲームクリエイターが転職に踏み切る理由を4種

では、ゲームクリエイターが転職に求める「より良い条件」って、具体的には何なのか。真っ先に思い浮かぶのは「給与アップ」ですが、ゲームクリエイターに特徴的な転職理由と言えば「やりがいある仕事」「チャレンジできる環境」が、よく挙がります。

では、もう一歩踏み込んで、ゲームクリエイターがどんな理由で転職を選ぶのか探ってみましょう。日々直接の接点をもって転職者の率直な声を聴いている当社のゲーム専任転職エージェントに聴きこみ調査をしてみましたので、それをもとに主な転職理由をカテゴライズしてご紹介します。

1)次の一歩に踏み出す「ステップアップ」型

次の一歩に踏み出す「ステップアップ」型

まずは、自分の仕事領域やポジション、開発対象を替える上昇志向のステップアップ型。

別タイトルを手がけたい、特定ジャンルを極めたい

同一ジャンルで別タイトルを手がけたい、違うメンバーとプロジェクトをやってみたい、特定ジャンルで経験値を上げたい

ゲームのジャンルを替えたい

別ジャンルも手がけてみたい(例:RPG→アクションゲームに移りたい)、特定ジャンルにこだわらず、いろんなジャンルを経験したい

「運用」だけでなく「開発」プロジェクトを手がけたい

ソーシャルゲームの運用プロジェクトしか経験がなく、開発プロジェクトも手がけたい。両方経験してみたが、やっぱり開発に戻ってキャリアを積みたい

「コンソールゲーム」⇔「ソーシャルゲーム」を替えたい

コンソールの経験しかないので、ソーシャルも経験してみたい(または、その逆)

「デベロッパー」⇔「パブリッシャー」を替えたい

デベロッパーでの開発経験は積んだので、次はパブリッシャーでゲーム開発の上流工程やビジネス・マーケティング領域の専門性を高めたい。逆にパブリッシャーからデベロッパーに移って、開発現場での裁量権をもって専門的技能を磨きたいなど

プロジェクト規模をスケールアップしたい

もっとビックタイトルを手がけたい、より多くの予算・人数規模のプロジェクトを自分の裁量で動かしたい(あるいは一員として参画したい)

ポジション(職種や職階)を変えたい

デザインチームを率いるリーダーになりたい、事業マネジメントに軸足を移したい

メタバース、XRなど新興分野にチャレンジしたい

メタバース、XR(VR、AR、MR)開発など、新興分野の技術領域に挑戦したい

こうした上昇志向のキャリア転換を求めて転職する方が多いのは、ゲーム業界ならではかなと思います。数年の経験を積んで一人前と呼ばれるレベルになると、その上に自分がどんな専門性を打ち立てていくか、キャリアの分岐点が訪れます。

その一手が、今の職場でまかなえることもあれば、他の職場に移らないと得がたいこともあります。「肩書きはプランナーだけど、今の職場では企画書を書く機会がない」と焦燥感をもって相談に来られる方も。そうした検討の末、ステップアップ転職に打って出る方は、年齢問わず多くいらっしゃいます。

2)長期キャリアを見据えた「ワークライフ最適解」型

長期キャリアを見据えた「ワークライフ最適解」型

20代後半から30代にかけて多く見られるのは、この先の中長期的なキャリアを見据えてワークライフバランスを考慮した職場の最適解を考えた上で、それを実現するための転職。

仕事重視、なのに成長実感も挑戦機会もない

ルーチン・マンネリ化した仕事でつまらない。自分の能力や経験値に停滞感あり。自分を伸ばせる仕事、優秀なメンバーやメンターと一緒に働ける職場に移りたい

昇給・キャリア充実が見込めない

給与がずっと横ばい、大幅な昇給が見込めるのはマネージャー昇格者だけ。生涯現場で開発に専念したい自分には満足いくキャリアパスが会社に整備されていない

会社の将来性に不安

会社の経営状況が不安定で、将来性を感じない。定年まで視野に入れると、もっと経営基盤に安定感があって、将来性ある企業に早めに移っておきたい

各種制度や福利厚生が貧弱

プライベートな活動、出産・育児などライフステージ変化も見据えて、テレワークや時短勤務など、ワークライフバランスを大事にしている会社に移っておきたい

仕事経験を積み上げていくうち、自分が仕事とどうつきあっていきたいか、プライベートとのバランスをどうとっていきたいかというキャリア観も、おのずと育まれています。

20代はとにかくがむしゃらに仕事に打ち込んでいた人も、ライフプランと照らし合わせてプライベートとのバランスをとれる職場を求めるようになったり、あるいは「誰と働くか」「昇給・昇格は見込めるか」「生涯現場のキャリアパスがあるか」「会社に将来性はあるか」と多様な観点から今の勤め先を再評価。何は譲れるけど何は絶対譲れないという優先順位は人それぞれだし時期によって変わりますから、今の価値基準を整理した上で、より最適解と思える職場が見つかれば転職するという方もいます。

3)好機を逃さずに「やりたい」を実現型

好機を逃さずに「やりたい」を実現型

とにかく「これがやりたい」と突き動かされるプロジェクト、「この人たちと仕事したい」という出会いを認めれば、機を逃さずフットワーク軽く参画していくスタイル。これもクリエイターならではのキャリア選択のあり方ではないでしょうか。

オファーに応えて「移籍」感覚

他社からのオファーやヘッドハンティングを受けて、自分の専門性が活かせそう、経験の幅が広がりそう、自分の参画によって事業がうまく展開しそう、メンバーが面白そう・楽しそう、報酬や待遇面もOK、と総合的な判断から「移籍」を決める

タイトル買いのプロジェクト参画

昔から惚れ込んでいたシリーズのゲームタイトルが開発プロジェクトを始動するといったリリースを受けて、とにかくこのプロジェクトに参画したい!と転職する

熟練度が増すと、その仕事でステップアップできるかというより、「依頼主の期待に応えられるか、自分は適任者か」を合理的に判断して、縁を感じるプロジェクトに参画するクリエイターも。

4)過酷な労働環境からの「脱却」型

過酷な労働環境からの「脱却」型

最後に、過酷だったり不健全な労働環境からの脱却を目的とした転職が挙げられます。

労働時間が長い、過労、残業・深夜勤務が多い、休みがとれない

働き方改革で法律が厳しくなり、業界全体の健全化は進んだものの、一部ではコンプライアンス意識が低く、改正法に抵触する過重労働をさせ続けている職場も。体力・精神的にもたないぎりぎりのところまで追い詰められて転職相談に来る方も

給与に不満がある、残業代が出ない、勤怠管理や人事制度がルーズ

働きに対して給与が見合わない、残業代が出ない、報酬額の決め方が不透明・不公平(上司の属人的判断にゆだねられている)。こうした会社への不信感から、この先も長く働き続ける気にはなれないと見切りをつけて転職意志を固める方も

職場の人間関係に難あり、ハラスメントの横行、相性の不一致

上司や同僚とそりが合わない、風通しが悪い、組織風土が合わない、パワハラやモラハラなど。特にゲーム開発はチームワークで仕事を進めるため人間関係に難があると実務にも影響大、健全で自分の肌に合う職場環境を求めて転職を決断する方も

過酷な労働環境に身を置いていても、その会社でしか働いたことがないと、職場環境に問題があるのか、自分にタフさが足りないのか判断つきかねるもの。上司や先輩に言っても「ゲーム開発の現場とはこういうものだ」と取り合ってもらえなければ「そういうものか」と納得せざるをえなかったり。

でも健康に害が及ぶまで我慢してしまうと、健康を取り戻すだけで大変な道のりになりかねません。上記のようなことで神経をすり減らしている方は、どうにか時間を作って社外の人に話してみて、自分の職場や働き方を第三者の目も入れてチェックしてみることをお勧めします。

いろんな転職理由を並べてフィッティング

これら以外にも、ゲーム業界の外に異業種転職する(ゲーム制作に疲れた、まったく別の仕事に就きたいなど)、隣接する業界・職域に転職する(専門学校の講師、ゲームメディアの編集・ライター業、YouTuberなど)といったキャリアチェンジもあります。また、転職という枠をはずせば、プロダクションの起業・独立といった道を選ぶ方もいます。

今回の記事では、主なゲームクリエイターの転職理由を一覧で眺められるようにざざっと書き出してみましたが、いかがでしょうか。いろんな転職理由を自分に引き寄せてみてフィッティングしながら、自分のキャリア観をつかむ一助に使っていただければ幸いです。

「これは転職理由に値するのか?」を自問自答する方は、お気軽に当社のゲーム専任転職エージェントにご相談ください。「そもそも転職すべきなのか、今の会社で取り組むべきことはないか」や「転職活動するとして、具体的にどういう応募先があるのか」「個人情報を隠した形で、応募したい企業に自分の職歴を提示して反応を伺うことはできないか」など、問題の整理やキャリアの棚卸し、採用市場の動向や候補企業の情報提供など、ゲーム業界専任の転職コンサルタントが個別に対応しています。

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トレーニングディレクター/キャリアカウンセラー林 真理子
トレーニングディレクター/キャリアカウンセラー
林 真理子

1996年よりクリエイティブ職のキャリア支援・人材育成事業に従事。広告・メディア・ネット業界を中心にクリエイティブ職向けトレーニングやワークショップを開発。開発講座数は数百、法人提供実績は50社超。講師には実務エキスパートを招聘し、自身は裏方のインストラクショナルデザイン(教授設計)とプロジェクトマネジメントを専門に手がける。クリエイティブ職の仕事の学び方や教え方、人材育成やキャリア形成に関するスライドをSlideshareにて公開、総閲覧数は29万ビュー超。国家資格キャリアコンサルタント、日本キャリア開発協会認定CDA、日本MBTI協会認定MBTI認定ユーザー。