中ヒットはいらない。外れか大ヒットでいい。NHN PlayArtのものづくりへのこだわりとは NHN PlayArt 株式会社 社員インタビュー
中ヒットはいらない。外れか大ヒットでいい。NHN PlayArtのものづくりへのこだわりとは NHN PlayArt 株式会社 社員インタビュー
2013年8月、「NHN Japan」は「NHN PlayArt」へと社名変更を行った。パブリッシャーでありながら、ディベロッパーとしての側面も強まりつつある中、どういったスタンスでゲームづくりに取り組んでいるのか。エグゼクティブディレクターの馬場一明氏と、アートディレクターの竹内晃朗氏に伺った。
──:社名変更に伴って、社内で何か変化はありましたか?
馬場氏:以前はハンゲームのタイトルにも見られるように、カジュアルな内容のゲームがメインでした。そこから組織体制の変更によって、ネイティブアプリをはじめとした、より広いプラットフォームに進出するようになったのは、1つの変化ですね。
ジャンルの幅も広がっていて、アクション要素が強いゲームをつくったり、3Dにチャレンジしたりと、面白そうなものに手を伸ばしています。以前は、自分たちが得意とするゲームをメインでつくっていましたが、その延長線上でさらに視野を広げるようになったというか。手探りの部分もあるんですけど、その状況も楽しんでいます。特に竹内さんは楽しんでいるよね?
竹内氏:そうですね。この会社には、ものづくりにおける制約が多くないので、つくっていく内にどんどんこだわりたくなるんです。アイテム1つをとっても限界まで突き詰めていますよ。ただ、制作に時間をかけると自ずと修正する箇所も多くなるので、外注スタッフの方たちを使うのが難しくなってきていて。今回の募集で多くのデザイナーを求めているのも、内製でクオリティを高めたいという背景があるんです。
──:とことんまでクオリティを追求できるのは、クリエイターにとってはありがたい環境だと思います。
馬場氏:たとえば、スケジュールを遅らせたいなというときも、「どこまで進んでいて、具体的にどうなっているのか」という状況を事細かに見てもらえるんです。それを踏まえた上で、「じゃあもっとつくり込みましょう」という判断が下される。あくまでもクオリティが最優先であり、納期ありきではありません。細部であっても、質が損なわれるような箇所があれば、スケジュールの延期は可能ですね。
竹内氏:プロジェクトリーダーを務めているメンバーのほとんどが、デザイナーやプログラマといった現場出身なのも大きいですね。現場が何を求めているのかを分かっている。ですから、ディレクターが雑用をしているといった光景は、ここでは見られませんね。私もアートディレクションという部分に注力できていて、いまだに自分でデザインを描くこともありますよ。
──:具体的にはどの辺りにこだわっているのでしょう?
竹内氏:現在手がけているスマートフォン向けの3DアクションRPGでは、遊びの仕組みをしっかりとビジュアルに落とし込んでいます。たとえば罠になるようなものであれば、罠が作動したときにちゃんと驚いてもらえるのか、もらってうれしいアイテムならちゃんとうれしさが伝わる演出になっているかなど、挙げるとキリがありませんね。
──:どこまで突き詰めるのか、自分で線引きをするのは難しいのでは?
馬場氏:誰かが止めるしかないですね。僕が手がけているプロジェクトの1つがすごく長いんですよ。もう2年くらいかな。
──:それは長いですね! リリースのタイミングを見計らっているんですか?
馬場氏:ではないですね。マーケットの状況は特に考えていません。ゲームって、つくってみないと分からないことだらけなんです。実機に組み込んでみたら、意図した見え方になっていないとか。だから、トライアンドエラーをとにかく繰り返しています。ここまで来たらお金を突っ込んででも、やるところまでやるしかなくて。でも、つくり込んだ分だけ返りがあるんですよ。事前に決めたスケジュールに合わせて無理やりリリースするよりも、つくり込んだ方が結果的に売上を取り戻せる。開発に時間がかかったとしても、会社の利益は他のプロジェクトで補完できますし、万が一失敗したときも資産が残りますから。
──:失敗を恐れていないと。
馬場氏:中ヒットはいらないんですよ。外れか、大ヒットでいい。とにかくナンバーワンになりたいんです。それもオリジナルタイトルで。自分たちで生み出したものが大きなムーブメントとなって、それがIPモノになる。それくらいの意気込みで取り組んでいますよ。
──:グループの資本力があるのも、そのスタイルの一助になっているのでしょうか?
馬場氏:グループのバックボーンがあるのは大きいでしょうね。数千万単位のプロジェクトでも、当初の予定から2倍になることもありますよ。つくる前はビビるんですけどね。こんなにお金をかけてもいいのかと。でも、いい企画なのにデザインがしょぼいのは嫌なんです。いい企画だからこそ、隅々にまでこだわりたくて。
──:失敗談もありますか?
竹内氏:いっぱいあるよね。
馬場氏:うん。1冊の本を書けるくらいある(笑)。一度完成させた後に、「ここを直す必要があるな」と思って、結果として内容を40%くらい修正したこともありますから。本当に満足した上でリリースしたいんですよ。でも今は、やり直しが多くならないように気を遣っていて。前はプロジェクトリーダーの判断によるところが多かったんですけど、徐々に各自が責任を持って動けるようになってきたので、楽になっています。「この機能でいいのか」といった各フェーズを全員で詰めながらやっているので。
竹内氏:その辺りは、以前と比べて変化が生まれていますね。クオリティチェックも、なるべく多くのメンバーで行うようにしています。別のプロジェクトのメンバーの意見にも耳を傾けることで、内容の精度が上がっていくことも少なくありません。
──:今後は一つひとつの精度を上げつつ、タイトル数も増やしていくのでしょうか?
竹内氏:増やしていきたいですね。特に今はデザイナーが不足していて。
──:どういったデザイナーを求めているのでしょう?
竹内氏:私たちは少人数で進めていることもあって、1人のデザイナーがコアメンバーとして何でもつくっています。キャラクター、背景、UI、ときには3Dを手がけることもあります。ゲームコンセプトを踏まえた上で、いかにしてそれを膨らませるかを意識しながら、デザイン全体を率先していただける方であればベストですね。
馬場氏:提案型のスタンスで取り組んでほしいので、積極的な人がいいよね。たとえば企画書を見て、メイン画面のデザインを自己判断でつくって来るとか。そういった人がいると楽ですよ。むしろ、「指示通りには動かないぞ」くらいでかまわないと思っています。
竹内氏:そうそう。「ここのボタンをつくってほしい」という情報だけもらって、後は自分で解釈を広げながらデザインを固めていくとかね。頭の使い方がプランナーに近いのかもしれません。特に初期段階では、考える時間をたっぷりと設けています。画面の構成を練っていく中で、根本となる部分を変えた方がいいなら、仕様書を直すこともありますよ。
馬場氏:提案に対してはNGを出すこともあるんですけど、「なぜそうなのか」という明確な理由も併せて伝えています。NGってね、出すのは楽なんです。でもOKと同じくらいの重みがあると感じていて、裏付けがないと出してはいけないと思うんですよ。だから「これはダメだよ」という曖昧な言い分で、提案やデザインを撥ねつけることはしません。
──:なるほど。明確な理由があれば、「次はこうしよう」という前向きな捉え方ができますね。
竹内氏:あとは、いろいろなジャンルに関われることを楽しめる方であれば、さらにうれしいかな。たとえば、ずっとスポーツゲームをつくってきた方であっても、「それしかできません」ではなく、RPGやアクションゲームにもどんどんチャレンジしてほしいですね。
──:ずっと1つのジャンルの絵を描いてきた人が、いきなり別のジャンルの絵を描けるものなのでしょうか?
竹内氏:ポートフォリオを見れば、ある程度の対応幅があるなというのは分かります。それは選考ポイントの1つですね。あとはデザインが好きな人って、仕事外でも何かしらの行動を起こしていることが多いんです。作品をつくっているとまでは言わないものの、自分でデッサンを描いているとか。そういった小さなところにも目を配っていますよ。
──:場はどんどん提供されていくのですか?
竹内氏:ふとした瞬間に思い出すんですよ。そう言えば、「メカニック系のタイトルに関わってみたい」って○○さんが呟いていたなって。日頃の何気ない発言が頭に入っていて、いざというときにフラッシュバックすることも多いですね。
──:別のジャンルへのチャレンジは、壁も高くなると思うのですが。
馬場氏:壁が高いことを楽しんでほしいんです。確かに、これまでの経験をそのまま活かせるプロジェクトだと、苦労することは少ないかもしれません。でも「低い壁を狙おう」とスタンスはテンションが下がりますね。壁が高いのを知っていて、それでもぶつかっていくくらいの心意気が欲しいんです。何が起こるか分からない方が面白いじゃないですか。
竹内氏:失敗することもありますけどね。
馬場氏:2年かかることもあるし(笑)。でも、何かが向こう側に見えているなら行くしかないんです。たとえ壁が高くても。僕たち自身がそういうタイプなので、同じ志を持っている方たちと一緒に大ヒット作を生み出したいですね。
──:そのニュースが届くことを心待ちにしています。本日はありがとうございました。
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