【前編】『製販一体』、版権元も開発現場も一緒にコンテンツを盛り上げるバンダイナムコエンターテインメント流のマーケティング&プロモーション方法論

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【前編】『製販一体』、版権元も開発現場も一緒にコンテンツを盛り上げるバンダイナムコエンターテインメント流のマーケティング&プロモーション方法論

 

『アイドルマスター』シリーズ、『テイルズ オブ』シリーズ、『鉄拳』シリーズなどの自社IP(=キャラクター等の知的財産)だけでなく、『ドラゴンボール』『NARUTO -ナルト-』『ONE PIECE』などの世界的IPを権利者(以下版権元)からお借りして、家庭用(コンシューマー)ゲームやスマートフォン向けゲームアプリなどのネットワークコンテンツを世界中に展開するバンダイナムコエンターテインメント。パブリッシングに高い専門性を持つ企業ながら、「製販一体」の考えのもと、マーケティング・プロモーション担当者もコンテンツの開発初期段階からプロジェクトに参画。プロデューサーや版権元、時にはプラットフォーマー等多くのステークホルダーと綿密なコミュニケーションを取りながら、最適な展開方法を模索しています。
今回は同社のIP関連タイトルにおいて、幅広い領域でマーケティング・プロモーションを担当する白椿彩香氏、UKやスペイン(バルセロナ)での勤務経験をもとにグローバル市場に向けた展開をリードする渡邊春樹氏の2人に、バンダイナムコエンターテインメントでの具体的な業務内容やマーケティング・プロモーション業務の魅力について聞きました。

 

バンダイナムコエンターテインメントが定義する「マーケティング&プロモーション」

―――今日はバンダイナムコエンターテインメントにおけるマーケティングおよびプロモーションの業務内容を詳しくお伺いします。まずは自己紹介をお願いします。

白椿:当社の事業部門のひとつ、第1IP事業ディビジョン所属の白椿です。入社当時からIP関連タイトルのマーケティング・プロモーションを担当し、現在は『機動戦士ガンダム』関連タイトルを中心に携わっています。家庭用ゲームからスマートフォン向けゲームアプリ、また自社IPから版権元よりお借りしているIP(以降他社IP)に至るまで、幅広い領域のタイトルに関わってきました。

渡邊:同じく第1IP事業ディビジョン所属の渡邊です。海外に向けたプロモーション戦略を立案し、実行推進をする立場になります。入社してから3年間は『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』関連タイトルなどに携わり、その後は Bandai Namco Entertainment UK Ltd. へ出向、続いてバルセロナで Bandai Namco Mobile S.L. の立ち上げへの参画と、長年海外での経験を積ませていただきました。2023年3月、約5年振りに日本へ帰任し、再びスマートフォン向けアプリタイトルのマーケティング・プロモーション担当として働いております。

 

―――お二人とも新卒でバンダイナムコエンターテインメントに入社したとのことですが、ゲーム業界のマーケティング・プロモーションを志した理由を教えてください。

渡邊:私は高校時代をオーストラリアで過ごしたのですが、当時からよく現地のゲームセンターに足を運んで『鉄拳』シリーズを遊んでいました。言葉も文化も育ってきた環境も違う人たちが、ゲームという同じコンテンツを通じて仲良くなれたという原体験から、「ゲームを世界中に広めたい」という強いモチベーションを持つようになりました。

白椿:もともとエンターテインメント系の業界全般に興味があり、バンダイナムコエンターテインメントには「いろいろなIPに携われる」という期待感を持って入社しました。私自身は根っこがオタク気質で、新しいコンテンツの布教活動をして、それでハマってくれる人を見るのが嬉しいタイプなんです。大学時代もアルバイトとして働いていたCDショップで「自分の好きなアーティストを広める!」と、店頭ポップを好き勝手に書いていました。そのまま自然に、自分の好きなコンテンツを広める仕事に就きたいと考えるようになりました。

 

―――「ゲーム業界の仕事」というと開発面がフォーカスされがちですが、マーケティングやプロモーションの観点もゲーム制作にとって非常に重要です。これらの業務は各社特色がありますが、まずはバンダイナムコエンターテインメントにおける業務の全体像を教えてください。

白椿:私の所属部門では、マーケティングは戦略、プロモーションは戦術になります。前者はゲームの魅力はどこで、それが刺さるターゲットは誰で、その人にどういった形で届け、どうなって欲しいのかを考える仕事です。後者は戦略を実行に移す施策を指します。例えば「30代男性に向けてコンテンツを広めていく」という目的なら、その人たちが接しているメディアはなにか、どういったコミュニケーションが効果的かを考えるのがプロモーションです。

渡邊:基本的にはプロジェクトとして走り出す社内審査の段階からタイトルに関わっています。調査から見えてきたマーケットサイズやジャンル/ゲームとしての受容性などをもとに、どういったユーザーに対しどういった情報展開でコンテンツを届けていくか、プロダクトとしてベストな展開戦略を考えるのが主な仕事です。

開発開始以降は、一般的には「初出」と呼ばれる最初の発表から、(プロジェクトによっては)ベータテストなどを経て、リリース時に大きな施策を展開するケースが多いです。リリース前、リリース直後、リリースから1年など時期によってマーケティング面の課題は変化しますので、仮説立てと施策実行、その検証(ポストモーテム)を繰り返してタイトル、ファンの盛り上がりを維持していきます。

 

―――企画開発を担当するプロデュースチームとはどんな関わり方をされているのでしょうか?また、1タイトルにつき、何人がマケプロとして携わるのでしょうか。

白椿:コミュニケーションについては、開発会社と直接やりとりする場合もありますが、基本的にはプロデューサーと版権元と協議の上プロモーション施策を設計するのが業務の中心になります。IPを毀損しないよう、またIP拡大に繋がるように意識しながら施策を調整し、さまざまな提案を行います。人数はタイトルによりけりですが、2~3名編成が多いですね。

渡邊:海外拠点の場合は、プロジェクトがグローバルに向けて打ち出した戦略に対し、具体的な戦術を検討する部分を担当することが多いです。主に日本国内で策定することが多いプロジェクト全体のマーケと現地のマーケのハブのような役割ですね。プロデューサーとの協議の上でプロジェクトとして定めた方針をもとに、実現方法を海外チームが現地の視点をもって考えます。多くの場合は日本から直接海外の代理店とやりとりをするケースもありますがコミュニケーションや合意形成が仕事の重要なポイントであることは相違ありません。

 

製販一体、白椿氏が語るIP関連作品のマーケティング・プロモーション術

―――ここからは具体的なプロモーションの事例についてお伺いします。日本を中心としたアジア地域のマケプロを長年続けてきた白椿さんが印象的だったプロジェクトを教えてください。

白椿:どういった形であれ、最終的にお客様に最良の体験を届けることが目的になりますが、他社IPの場合は「版権元より施策の承認をいただく」というフェーズが必ず存在します。ここで重要なのは、IPホルダーの指示通りにプロモーションを行うのが仕事ではないということ。ゲームが良い形で広まることで、IP全体の盛り上げにも繋がります。IP全体のため、双方が納得感のある形で着地できるように版権元と密な連携をとること多いです。

例えば、YouTuberが台頭し始めた当初、担当のタイトルでYouTuberを起用したプロモーション施策を提案したことがありました。当時はYouTuberを起用する事例は少なく、版権元からも「流行っているからやりたいだけなんじゃ?」と反応を受けましたが、なぜ、このタイトルで起用したいのか、起用することでどういう効果があるのか、お客様は何を求めているのかなどを丁寧に説明することでご納得いただき、最終的には本施策によりダウンロードが想定以上に増えたという良好な結果に繋がりました。これはあくまで一例ですが、施策の狙いと、その施策によりどういう効果があるかを明確に伝え、IPにとって盛り上げの一助となることをご納得いただいた上で承認を得るのも、IPタイトルで必須の動きになります。

 

―――IPはゲームだけではなく、アニメや書籍、グッズなど横展開が多いのも特徴だと思います。

白椿:そうですね。横展開でいくと、私が過去に担当した『荒野のコトブキ飛行隊』は、TVアニメとスマートフォン向けゲームアプリ『荒野のコトブキ飛行隊 大空のテイクオフガールズ!』を連動してプロモーションする必要がありました。もともとゲーム化を前提としたアニメ制作だったことから、「この機体が今週アニメに登場するから、ゲーム側も同じタイミングで実装できるようにクリエイティブを進めよう」など、アニメと合わせた進行を行っていました。

また、『ワールドトリガー』では、版権元と一緒に映画館の大スクリーンでのアニメ上映会&PlayStation®Vita(※)版とスマートフォン向けゲームアプリ版を大スクリーンでプレイする施策などを行いました。「この施策を行えば、IP全体が盛り上がるのでは?」という目線で提案を行い、IPを愛する方に喜んでいただき、最後はしっかりゲームも楽しんでいただくのが理想形ですね。
 


 

“PlayStation”および“PSVita”は、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標または商標です。
 

―――逆に、自社が有する新たなIPではいかがでしょうか。より自由な発想で仕事ができる反面、初期の認知向上が難しい印象を受けます。

白椿:スマートフォン向けゲームアプリは特にレッドオーシャンですので、新規IPは綿密な調査の上で展開しないと埋もれてしまいますね。

よく実施する手法は「この製品の一番の魅力はどこか、どのポイントがどういうお客さんにどう刺さり、どういう行動を起こして欲しいか」を徹底的に考え、「市場で競合になり得ると想定されるゲームは何か、自分たちのタイトルと競合の良いところを比較し、自分たちの良いところが強く刺さる層を設定する」というもの。プロデューサーや専門チームと一緒に何度も調査や仮説検証を行い、どこに潜在層がいるのか、どうリーチするのかを検証していきます。「この製品のこの部分はこの層に刺さりそうだね」という要素が見えてきたら、そのターゲット層に対して訴求力のあるプロモーションを設計していきます。
もちろん、配信した後に初期に検討していたものと違った……ということもあるので、配信後も何度も何度も試行錯誤を行っています。

 

―――いま白椿さんが担当している『機動戦士ガンダム』シリーズは長い歴史を持つ作品ですが、版権元もバンダイナムコグループとなったことで、なにかプロモーション方針は変わりますか?

白椿:グループ企業と一緒に戦えるのは大きな強みです。今携わっている『機動戦士ガンダム バトルオペレーション2』は2023年で5周年を迎え、ゲーム内の新機体として『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』から、MS「Hi-νガンダム」と「ナイチンゲール」が登場しました。

このタイミングで、株式会社BANDAI SPIRITSから発売される「METAL ROBOT魂 <SIDE MS> Hi-νガンダム ~AMURO’s SPECIAL COLOR~」、「ROBOT魂 <SIDE MS> ナイチンゲール ~CHAR’s SPECIAL COLOR~」の情報も解禁したんです。情報解禁をした際にはお客様も大盛り上がりしていただき、結果的にTwitter(現X)でのトレンド入りも果たしました。ゲーム単体の施策よりさらに効果的に展開ができたと思います。

 

 

©創通・サンライズ
©荒野のコトブキ飛行隊製作委員会
©葦原大介/集英社・テレビ朝日・東映アニメーション
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

 
 
 
共同募集:株式会社バンダイナムコエンターテインメント × IMAGICA GEEQ
 
To Creator編集部
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