アーティストもプログラマーも、関わる全員が「ゲーム開発者」。『#コンパス 戦闘摂理解析システム』『LINE:ディズニー ツムツム』など人気タイトルを手掛けるNHN PlayArtの開発スタイルを3DCG側面から紐解く

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アーティストもプログラマーも、関わる全員が「ゲーム開発者」。『#コンパス 戦闘摂理解析システム』『LINE:ディズニー ツムツム』など人気タイトルを手掛けるNHN PlayArtの開発スタイルを3DCG側面から紐解く

NHN Playart インタビュー MV
 

モバイルゲーム黎明期から数々のヒット作を生み出し、『LINE:ディズニー ツムツム』や『#コンパス 戦闘摂理解析システム(以下、#コンパス)』など常に新たな体験を追求してきたNHN PlayArt。今回は長きにわたってアーティストとして活躍してきたお二人に、同社の3Dアーティストの仕事の魅力、『#コンパス』制作の裏側、そして今後の展望についてお話を伺いました。

 

―――自己紹介をお願いします。

藤田氏:NHN PlayArt シニアマネージャーの藤田と申します。ゲーム業界歴は28年で、初代PlayStation時代からコンシューマーゲームに携わってきました。キャリアの原点はアニメーターですが、すぐにエンバイロメントをメインに制作するようになり、2000年代中盤からはアートディレクターとして100人規模の大型マルチタイトル開発に関わる機会もありました。

NHN PlayArtには2012年にデザイナーとして転職しました。前の現場では職位が上がると仕事の大半がマネジメントになってしまい、手を動かすことがほとんどできなくなっていましたが、NHN PlayArtではシニアマネージャーになった今も9割ほどは実際にゲームを作る仕事ができています。最初に携わった新規開発タイトルは『LINE レヴァナントゲート』でのエンバイロメント制作で、その後は『#コンパス』でアートディレクターを務めました。
シニアマネージャー・藤田氏
 
橋爪:2Dアートマネージャーの橋爪です。藤田同様にプレイングマネージャーとして、3Dモーションデザイン業務をしながらマネジメントを兼務しております。新卒で関西のゲーム会社に入社し、その後は一時的に仕事を離れていましたが、2006年から株式会社マルチタームで『ファンタジーアース ゼロ』などの運営タイトルに関わるようになりました。

その後マルチタームはNHN Japanの完全子会社となり、そのまま今に至ります。これまでは2Dアートをメインに制作していたため、NHN PlayArtでは『LINE レヴァナントゲート』で初めて3Dモデル制作に挑戦させていただきました。その後は『#コンパス』に携わり、『#コンパス ライブアリーナ』ではアートディレクターも務めました。
2Dアートマネージャー・橋爪氏
 

―――お二人ともマネジメント層ながら、実際に手を動かすのが好きだということが伝わってきます。改めて、NHN PlayArtの会社概要について教えてください。

橋爪:NHN PlayArtはモバイルゲームの開発・運営を行うゲーム会社です。もともとは韓国ハンゲームの日本法人として設立され、主にオンラインゲームやPCゲームを制作していましたが、2015年からPlayArtとして分社化し、新たな組織体制でモバイルゲームに注力するようになりました。

【#コンパス】プロモーションームービー【NHN PlayArt x niconico】

藤田氏:源流はWebサービス事業やカジュアルゲーム制作を行ってきた会社ですが、プラットフォームがスマートフォンへと移行する中で、早い段階から『#コンパス』などコンシューマーゲームに近い本格派タイトルを作る方向へとシフトしています。

現在の社員数は266名で、割合としてはデザイナーが44%、プランナー・運営が32%、プログラマーが24%の組織となっています。
図:人的資本
 

―――NHN PlayArtが開発・運営するタイトルはパズルやアクションなど多岐にわたりますが、アート制作において全体に通底するミッションやコンセプトはありますか?

藤田氏:IPタイトルかオリジナルかによっても異なってきますし、パズルなのかアクションなのかによっても作り方は変わります。可愛らしいキャラクターや、着せ替えなどの要素があるコンテンツであれば見栄えを最大限重視したデザインにしますし、アクションゲームを制作する場合は、スマートフォンなどの小さい画面でも自身の操作やキャラクターのリアクションが分かるようシルエットに特徴を持たせます。「どのようなゲームとして遊んでいただくか?」を考えたうえで、ゲームデザインに直結するデザインを行うことが基本となっています。

オリジナルIPであれば、企画の目標に合致したデザインを追求します。私個人としては「子どもが落書きできるくらいのシンプルな形状」 が良いデザインであると考えており、『#コンパス』もゲームとして見やすく、かつ子供でも描きやすいようにデザインを心掛けていました。
橋爪氏:ゲーム会社はそれぞれ多様な開発スタイルを持っていると思いますが、NHN PlayArtが掲げているのは「全員が開発者である」という考えです。デザイナーであろうとプログラマーであろうと、全員が企画に対して積極的に意見を出すことが求められます。言われたものを作るだけではなく、全員が協力してゲームを作り上げていくという雰囲気があります。
 

―――ここからはお二人が深く関わってきた『#コンパス』の事例から、より詳しく制作スタイルをお聞きできればと思います。

藤田氏:『#コンパス』開発は創作工房のような、アトリエのような雰囲気でしたね。詳細なスケジュールや仕様を最初から固めるのではなく、ラピッドプロトタイピングで遊びの核を作っていく時間が長かったように思います。

このような、全員の“作家性”が見えるようなタイトル開発スタイルは、全職種合わせて50名ほどが限界ではないかと感じています。『#コンパス』がちょうどいいサイズのプロジェクトで、これ以上はもう少し組織立った作り方になっていくと思います。
橋爪氏:開発初期においては仕様書を細かく作成しなかったのも特徴でした。というのも、ドキュメントを作成する前に新たなブラッシュアップが行われるためです。どのプロジェクトも、開発初期は短いサイクルで作っていく感覚があります。
「アタリ」旧モデル 「ジャスティス」旧モデル 「リリカ」旧モデル
 
藤田氏:一方、アート制作は計画的に進めています。ゲームデザインのブラッシュアップと並行して、企画内容に合わせた参考資料の収集を行い、早い段階でコンセプトアートを作成します。その後ディレクターと協議し、OKとなれば必要な仮モデルを制作し、実際にUnity上で動かしてプレイしてみます。


方向性が固まってきたら、内製シェーダーに切り替え、ライティングなどの環境要素を実装し、LookDevで問題がないかを検証します。『#コンパス』初期キャラクター制作では「十文字アタリ」、「ジャスティス」、「リリカ」の3体を作成しました。大・中・小のシルエットが分かりやすく、色合いが特徴的で、かつ装飾の有無やスカートの有無など多様なパターンを用意してテストを行いました。
「イスタカ」立ち絵 「ジャスティス」立ち絵 「リリカ」立ち絵 「アタリ」立ち絵
 
橋爪氏:ルック開発は藤田の説明の通りですが、モーション制作はゲームデザインとより密接に関連しているため、企画側のテストサイクルに合わせて細かく調整を行っています。
 

―――使用するDCCツールやパイプラインに関して、可能な範囲でお聞かせください。

藤田氏:プロジェクトにより使うツールや数は変わりますが、キャラクターモデル制作には主にMaya、ZBrush、Marvelous Designerを使用しています。テクスチャはクオリティを均一化するためPhotoshopとSubstance 3D Painterを併用し、背景制作ではSubstance 3D Designerも使用することもあります。 ツール選びは個人の裁量に任せている部分が多く、例えばエフェクト制作ではHoudiniを用いるケースもあります。ただし、Houdiniが必須というワークフローにはしていません。
Houdini:地割れエフェクト1 Houdini:地割れエフェクト2 Houdini:地割れエフェクト3 Houdini:地割れエフェクト4
 
橋爪:DCCツールはどれも似ているため、特定のツールしか使えない場合も転用が効くと思います。また、人によってはPV制作などでAfter Effectsなども使いますね。
 

―――先ほど「全員が開発者である」と発言がありましたが、能動的な開発スタイルの具体例があればご紹介ください。

藤田氏:「イスタカ」が印象的ですね。モーション担当の方がキャラクターデザインにも挑戦したいということで、実際に描いた立ち絵がそのまま採用されたんです。クオリティを満たせば、誰がどんなチャレンジをしても良いのがNHN PlayArtの特徴かもしれません。
「イスタカ」初期 「イスタカ」3Dモデル
 

【#コンパス公式】イスタカ(CV:神奈延年)【ヒーロー紹介】

橋爪氏:演出もどんどんリッチになるので、毎回新たな試みをやっている気がしますね。私が印象に残っているのは「クー・シー」です。ホーム画面で顔がアップになる演出があり、既存のテクスチャ仕様ではクオリティが出せなかったため、あえて仕様を超えた高解像度テクスチャを使用しています。他にも、装飾品の発光を表現するためのマスクマップをエンジニアと相談して実装するなど、やりたいことに対してエンジニアと二人三脚で対応することが多いですね。
藤田氏:やりたいことができるのはその通りですが、もちろん最適化は必要不可欠です。軽く動作させることは、開発者としての最低限のリテラシーだと考えています。
 

―――各職種が「創作工房」的に作家性を発揮し、さらに積極的に協力する関係であることは素晴らしいと思います。現場の雰囲気など、社風はいかがでしょうか。

藤田氏:NHN PlayArtに入社した頃、わずかに女性社員の方が多かったこともあり「ホワイトで優しい雰囲気だな」と感じましたが、この印象は長く働いている今も変わっていません。残業も他のゲーム会社と比較してかなり少ないと思います。
橋爪氏:働く人たちの人柄が良く、居心地が良いです。全員で協力して良いものを作ろうという雰囲気があります。また、私自身が新たに3DCGに挑戦したように、やりたいことに対して手を挙げ続ければ、必ずチャンスを与えてくれる環境だと思います。
2Dアートマネージャー・橋爪氏 2
 

―――そんなNHN PlayArtですが、組織を新体制に移行するとお伺いしました。この理由と、今後の展望をお聞かせください。

藤田氏:これまでは、各スタジオ長が率いる3つのスタジオが共存し、それぞれ看板タイトルを制作してきました。 この体制が10年ほど続いた結果、スタジオそれぞれの強みや特色が色濃く出た反面、各スタジオの様子が外から見えづらかったり、会社全体として知見が蓄積しづらかったりといった問題も出始めました。極端な例では『#コンパス』が出てはじめて「うちって3Dアクション作れたの!?」と気付く人もいたくらい、得意不得意が見えにくい状況でした。 また、個々人のキャリアパスに関しても、スタジオの専門性と個人の希望が一致しないケースが出てきました。こうした背景から、一度スタジオを解体して全員の知見を混ぜることが重要と判断し、タイトルごとの事業部へと再編しました。
ゲーム制作スタイル - DIVISION
 
橋爪氏:これまで所属していたStudio 51への愛着はありましたので、組織がなくなることの寂しさは感じます。しかし、現状のスタジオ制は他のスタジオとのメンバー間の交流が少なく、どのような状況で開発を進めているのかが分からないという課題があり、会社全体として情報共有や連携を強化する意味合いでは再編の妥当性は大きいと感じます。
藤田氏:マネージャーの意識もスタジオによって異なっており、例えば私は持てる力の9割ほどで制作に携わりたいと考えていますが、他のスタジオでは意図的にマネジメントに専念するメンバーもいました。また、安定を求める人もいれば、常に新しい挑戦を求める人もいます。Studio 51では、私も橋爪もヒット作を生み出した後に、あえてそこから離れて新しい挑戦をしてきました。しかし、中には同じタイトルに12年間携わる人もいます。これは個人のスタイルの違いであり、どちらのタイプも新たな組織体制の中で尊重されるべきだと考えています。
シニアマネージャー・藤田氏 2
 

―――プロジェクト単位の組織に変革する中で、横断組織としての「Art Gym」は残り続けるとのことですが、その理由をお聞かせください。

藤田氏:プロジェクトごとの再編においては、俯瞰的に人材を把握し、最適な配置を行うための組織が必要です。例えば、プロジェクトがクローズしたとき、そこで働くアーティストがどういった適性を持っているかを理解していなければ、適切な次プロジェクトへ送ることができません。 また、以前はスタジオごとの価値観で採用を行っていたため、例えば3DCGに強みがない部署が3Dアーティストを採用しようとした場合スキルを見誤る可能性がありました。新卒採用や中途採用のプロセスを円滑に進めるためにも、技術に明るい組織が必要です。 Art Gymのように、アーティストのスキルや人員配置を完全に把握した組織があることは、開発全体の下支えにつながっているのではないかと考えています。
 

―――今回は3Dアーティストの募集を強化しようと考えているそうですが、この背景には新作タイトルの開発などがあるのですか?

藤田氏:もちろん、新作の開発は行っております。詳細は明かせませんが、アートスタイルとしては完全なセルルックではなく、PBR表現によるリッチな質感を伴うスタイライズされたキャラクターをリアルタイムに動かそうとしています。 この実現には、これまで以上にアカデミックな知識やスキルを持つメンバーが必要になると考えています。美術的な基礎力や、技術的な基礎力がある人材がいると良いですね。しっかりしたR&Dを経て、一段上のレベルに到達したいと考えています。
橋爪氏:NHN PlayArtはパズルゲームのイメージが強いと思いますが、今までにない体験を作り上げたいとは常々考えています。その意味では、いま関わっているのは「あまり見たことがないゲーム」と言えるかもしれません。
 

―――大いに期待したいと思います。最後に、NHN PlayArtが求める人物像や、現場にマッチする人柄・スキルについて教えてください。

藤田氏:強いクリエイティビティを持つ人材を求めています。特に、演出の作り込みが得意な方は嬉しいですね。NHN PlayArtはパブリッシャーでもあるため、オリジナルのIPを制作する際、自分たちのゲームを広く一般の方に受け入れてもらえるように発信する必要があります。その意味では、ゲームのワークフローを理解し、アートディレクションができるような画力を持った人材も大歓迎です。
橋爪氏:「こういうものを作りたい」という意志を持っている方と一緒に働きたいです。作りたいものの方向性が、NHN PlayArtの目指すものと合致していれば、なお良いと思います。魅力的なキャラクターを生み出したい、面白いアイデアを持っている という方は、ぜひ一緒に働きましょう!
 

―――本日はありがとうございました。

(取材・対談者:神山 大輝 / @gula_sound )
 
To Creator編集部
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