【後編】『Hi-Fi Rush』開発陣が明かす、Tango Gameworks独自のクリエイティブ文化

インタビュー
キャリア
ゲーム
働き方

【後編】『Hi-Fi Rush』開発陣が明かす、Tango Gameworks独自のクリエイティブ文化

Tango Gameworks クリエイターインタビュー【後編】MV
 

「The Game Awards 2023」でベストオーディオデザイン賞を受賞するなど、世界的に高い評価を獲得したリズムアクションゲーム『Hi-Fi Rush』。その開発を手がけたTango Gameworksは、2024年よりKRAFTON新体制のもと、新たなスタートを切りました。

後編では、『Hi-Fi Rush』を支えた中核メンバー4名が同作に込めた細部へのこだわりや、ひそかに仕込んだイースターエッグ、新たなプロジェクトへの挑戦に加え、Tango Gameworks独自のスタイルにフィットするクリエイター像について語ります。

 

誰にも言わずイースターエッグを仕込んでもいい。自由な開発スタイル

ーークリエイターに裁量がある開発スタイルが、本作に活かされた点を教えてください。例えば「自分のアイデアがしっかり盛り込めた!」と思えた瞬間はありましたか?

Hi-Fi Rush Chai Ground Pound
 
畠山:ディレクターやアニメーターと会話をする中で「コスチュームチェンジをする画面でキャラクターを放置すると、自動的に動き出す」というアイデアはどうだろうか、という話題が出たことはありました。
かなり盛り上がったので、開発終盤ではありましたがコントローラーを放置するとキャラクターが動き出すというプチ要素を実装してみました。スケジュールに余裕がないなかでも遊び心を入れたいと思って創意工夫をしたポイントです。
石川:同じく開発終盤、「Tango Gameworksの旧ロゴのカタツムリ、Tangoちゃんをゲームの中に入れてみたら面白い気がする」と思い立ち、私が勝手にモデリングして、リガーやカットシーン班に「誰にも言わずにリグやアニメ-ションを入れて欲しい」と依頼して、出来上がったアセットをイースターエッグ的にステージに散りばめたことはあります。
 

ーーすごいエピソードですね。これはディレクターも知らないんですか?

石川:ある程度できた頃、「作ったから入れておくね」とは言いました。他にも、全要素をクリアしたあと、過去の作品を模したTangoちゃんのディスクパッケージが出てくるなど、ごく一部、数名しか知らない仕様もあります。
アニメーターやサウンド班も心の中でどう思っていたかは分からないのですが、みんな笑顔でかわいいモーションやサウンドをつけてくれました。ディレクターは苦笑いでしたが「まあ良いんじゃないですか」と。
山崎:私の方ではお掃除ロボット(SCR-UB)が何回壊されたか、808と何回遊んだか、勝手にイベントを仕込めるだけ仕込んで、データをたくさん取得しました。発売後の盛り上がりを維持するためです。これを見て「もう一度遊んでみようかな」という気持ちになってもらえたらと思っています。
 
村岡:ちなみに「このイベントも仕込んで!」とお願いしたら、仕込んでくれるんですか?
山崎:もちろんですよ!
 

ディレクターが立てた軸に、それぞれが自由な発想で肉付けをしていく

ーーここまでの話題でも、皆さんが本当に楽しそうに開発をしているのが伝わってきました。

村岡:本当に自由度が高い、積極的なクリエイターにとってはすごくいい環境ですね。「みんなに内緒でステージにネタを仕込む」という、石川さんのような自由な方が周りに多いので、私にとってはある意味プレッシャーではありましたが、いま担当しているプロジェクトでは「いろいろ提案をしていくぞ!」と思ってアイデア出しを頑張っているところです。
Hi-Fi Rush Boss Video Call
 

ーーその一方で、一般的なワークフローに照らし合わせると、なかなかQAが大変なような気もしますが、この辺りはいかがでしょうか。

山崎:QA担当はタイトル傾向もワークフローも完全に把握しているので、そこはツーカーでやっています。「なぜかTangoちゃんが全ステージにいるんですけど?」などはありますが、そこはうまくTango Gameworksらしく、「今回はイースターエッグ多いですよね」みたいなことも言いながら楽しく作業をしています。
畠山:それでも創業初期よりはワークフローもかなり洗練されましたよ。最初の1作目も、みんな何個かネタは入れ込んでいたようですが。
石川:あの頃は固まった仕様書もなく、スケジュール管理の概念も「それぞれみんなが頑張ろう」という感覚でしたね。だからこそというか、自分たちの創意工夫やアイデアが直接、作品に入っていくイメージはありました。
山崎:いまは洗練されたとはいえ、そういう作り方がみんな体に染み込んでいるんですよ。「お伺いを立てる」という考えはない。ディレクターが立てた軸に対して、各セクションが楽しく肉付けをしていくという作り方がTango Gameworksらしさなんだろうと思いました。
山崎氏
 

新体制への適応と、これからのプロジェクトに向けて

ーーKRAFTON体制に移行してから1年が経過しましたが、制作のしやすさやスタイルは変化しましたか?

山崎:変わった印象はまったくないです。大きな組織の中のスタジオではありますが、私たちの作り方はそのままで良い、という本当にありがたい環境を維持していただいています。そのままゲームづくりが地続きになっている、Tango Gameworks 2.0という感じですね。
石川:本当になにも変わっていないですね。
畠山:そうですね。同じ感想です。
 

ーー現場に影響を与えない、クリエイター重視の姿勢が伺えますね。現在取り組んでいるプロジェクトについて、内容は明かせないと思いますが、『Hi-Fi Rush』を経て、どのような気持ちで取り組んでいるのでしょうか。

畠山:小規模チームでは誰もが自然に意見を出せると思いますが、いまはチームもだいぶ大きくなりました。
今は“意見を出しやすい環境”をどう作るかを常に考えるようにしています。 例えばディレクターのチェックやミーティングのとき、『この人のチェックは盛り上がりそうだな』と思ったら、あえて新人メンバーを同席させるんです。和やかな雰囲気の中で会話を交わすことで、『自分も話していいんだ』と思える。そういう空気を意識的に作っています。
村岡:UIに取り組む中で意識しているのは、“一般的なUI”と“そこからの逸脱”というバランス感覚です。普通のゲームでよくある表現を踏まえつつ、そこにプラスアルファの要素を組み込み、『これってTango Gameworksらしいよね』と思ってもらえるUIを作っていきたいです。
“あえて一般的にならないように”と意識し過ぎているわけではないですが、作っていく過程で独自性が滲み出るのが理想です。まだ自分の中では抽象的な段階ですが、形にならない概念をどう具現化していくかを常に模索しています。
山崎:『Hi-Fi Rush』はアワードも多く頂き、ユーザーからの嬉しいご評価も頂きました。一度は組織が難しい状況になりましたが、いまはKRAFTON傘下に入ったことで、きちんとものづくりができる体制が整いました。現在開発中のプロジェクトも今まで通りしっかり作れば、きちんと面白くなりそうな感覚です。
石川:「あの時はあれだけやっても大丈夫だった。今度はもっとやってやろう」という気持ちで仕事をしています。『Hi-Fi Rush』は最も思い入れのあるプロジェクトで、本心からTango Gameworksが楽しいと思えるプロジェクトでした。その時の気持ちと熱量のまま、現在も開発を続けています。
Hi-Fi Rush Chai Vista Shot
 

ーーありがとうございます。最後に、これから一緒に働きたい人材像について、スキル・人柄の両面で教えてください。

山崎:プログラマーに必要なのは「言われたことをやるスタンス」ではなく、自分から発信できる姿勢です。そして発信したからには必ず形にしてやり遂げること。その過程を楽しめる方と一緒に仕事をしたいですね。
システム開発であれば「社内メンバーが快適に開発できる仕組みをどう作るか」、ゲーム開発であれば「仕様書通りではなく、どうすればもっと楽しくなるか」というアイデアを出してほしいと考えています。特に当社はUE5を活用していますので、Unreal Engineに精通している方は大歓迎です。過去の登壇や発表内容に関心を持ち、同じ熱量で取り組める方にぜひ来ていただきたいです。
村岡:UIに関しては仕様書が細かく用意されていることは少なく、自発的に動けることが求められます。クリエイティビティはもちろん必要ですが、アーティスト的な自己表現よりも「プレイヤーのためにデザインする」という視点を持ち、ユーザー体験に気を配れる方が理想です。
スキル面ではPhotoshop、IllustratorなどAdobe系ツールが触れると嬉しいです。また、UIデザイナーはUMGアセットの作成まで担いますので、Unreal Engineを扱えることが望ましいですね。マテリアルまで触れる方なら、なお心強いです。
畠山氏、石川氏、村岡氏、山崎氏
 
石川:モデラー目線では、開発するゲームジャンルに応じてリアル調からセルルックまで幅広い案件に対応する必要があるため、スタイルを問わず「モデリング自体を楽しめる方」が適していると思います。また、造形力はもちろん、骨を入れてポージングを行い、シルエットまで意識できる方を歓迎します。
使用ツールはMaya、Photoshop、Substance Painterなどが一般的ですが、重要なのはツールの種類よりも「シルエットを捉える力」です。そこに強みを持つ方とぜひ一緒に仕事をしたいです。
畠山:アニメーターが重要視するのは、「アセットだけ作って終わり」ではなく、チームメンバーとコミュニケーションを取りながら制作を進めていくことに強い関心があるかどうかです。特にバトル要素などはプランナーと密に話し合う機会が多いため、黙々と作業するタイプの方より、積極的に対話できる方が合っていると思います。
スキル面ではMayaが扱えればまず問題ありません。Motion Builderの経験も歓迎です。ぜひ、ご応募をお待ちしております!
 

ーーありがとうございました。新プロジェクトも楽しみにしています!

(取材・対談者:神山 大輝 / @gula_sound )
 
畠山氏、石川氏、村岡氏、山崎氏
 
To Creator編集部
To Creator編集部

Tips/ノウハウ、キャリアに関する情報/最前線で働く方へのインタビュー記事など、クリエイターの毎日に役立つコンテンツをお届けしていきます!